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女性解放活動の祖と言われ、波乱の活動の内に故・市川房枝さんらとともに日本における女性の地位向上に多大な功績を残した平塚らいてう。

しかし、アルプスに舞う雷鳥をイメージして自身の名とし、いつか信州の地を終の棲家とすることを夢見た彼女が実は地産地消の考え方を持った自然回帰の人であったことはあまり知られていない。

2006年新緑の5月、彼女が終生足を踏み入れることの無かった信州真田のあずまや高原の一角にある彼女自身の土地に「らいてうの家」が完成した。

ここを訪れるすべての人は彼女の活動の意義と、知られざる自然への憧憬を持つ素顔とを知るとともに、地産地消・地域間交流の大切さを同時に考察する機会を得ることになる。

(平成18年度県コモンズ支援事業「森のめぐみ連続講座」終了までを取材・掲載します。)




始まりは地の縁、人の縁
その電話は突然のことだった。
「平塚らいてうの記念館を建設する予定地に立てる看板を作って欲しい」
真田町議会議員・花岡静枝さんのこの電話の一言から信州樵工房と建設プロジェクトの関係が始まった。
看板の材料は町産のスギ。チェンソーミルで製材して取っておいたストックが思わぬ形で役立つことに・・・・・

邂逅
信州樵工房代表の熊崎の自宅は真田町グリーンツーリズム研究会の林家民泊の宿。
とある秋の好日、NPO法人平塚らいてうの会の副会長であり、実質的な代表者である米田佐代子さん他2名の方がグリーンツーリズム民泊利用で真田においでになった。
地産地消の記念館づくりはここからその挑戦へのレールが敷かれたと言っていい。

建設予定地
建設予定地は真田町あずまや高原ホテル南に隣接する標高1400mのアカマツに覆われた避暑地。
生前、平塚らいてうが自身のために購入したもののついにこの地に生活の場を持つことはなかった。
NPO法人平塚らいてうの会はこの土地を遺族から譲り受け、らいてうの偉業を忍ぶ記念館づくりをすすめることにしたものだ。

ペレットストーブのこと
当初予定していた薪ストーブの導入を、やはりその扱いの難しさから協議の上でペレットストーブに変更。
ペレットでも十分に使えることは設計士グループも伊那で開催されたバイオマスシンポに参加して確認。多少電気は消費するものの、扱いの簡便さと火が見えることがポイント。
納入に関してはNPO法人森のライフスタイル研究所に一任で決定。県の何らかの補助も期待できそうだ。

会談
まあ、ご時世ですから・・・・・田中康夫長野県知事にご挨拶。
この会談を皮切りに、上小地方事務所長・上小地方事務所林務課長・母袋上田市長・箱山真田町長・柄沢助役・大塚真田町教育長・地元になる大日向区長らとも会見。
また長野県議会の女性議員の集まりにも招請されるなど、米田さんはまさに東奔西走の忙しさ。あのエネルギッシュな行動力の源は何なのでしょうか。

現地説明会
真田町林業会館で開催された一般向けの現地説明会。
真田、上田2つのらいてうの会の代表者の挨拶に始まり、代表の米田さん、設計グループの後ろ盾の永橋氏、アトリエ獏の服部さんらが次々に豊富と理念を語った。
ちなみに米田さんはらいてうをはじめとする女性史の研究家としても知られる元・大学教授で著書も大変に多い。先生と呼ばなければならない方なのだ。

アトリエ獏のプロジェクトチーム
元々の設計請負は東京の中央設計の永橋氏。
しかしらいてうの家の理念を知った永橋氏の勧めで地元女性設計士でプロジェクトを組織し、基本的にはアトリエ獏の服部弥重子さんを軸に総勢9名の女性建築士が作業にあたる。
若い方から若干ご年配(失礼!)の方まで、上小にこんなに女性建築士がおられたのかと感心することしきりだ。このプロジェクトだけで終わらせるには惜しいネットワークだ。

熱気こもる設計会議
深夜にまで及ぶ設計会議。
この日は施工業者を入札で決める前に指名予定の業者を呼んでの建築計画の説明があったために材を出す役目の信州樵工房も会議に参加。
聞けば昼間は主婦であったり、建築事務所勤めであったりするそれぞれの女性建築士が本プロジェクトで会議を持つとどうしてもやりとりは深夜に及んでしまうとか・・・・・ごくろうさま。

地元関係者に挨拶
田舎でコトを起こそうとするならばまず必要となるのが地元の関係者への挨拶回り。
ということで、真田町(現・上田市)の町長、助役、建設予定地の大日向区の区長、教育長を役場に訪ねた。
町産の木材を使うことの意義を説明し、応分の協力を要請する。

上小地方事務所にも挨拶
上小地方事務所へも出向き、所長と林務課長にご挨拶。
その後、県にはペレットストーブ導入やコモンズ支援金申請などで多大なご協力をいただくことになる。

もひとつオマケに上田市長に挨拶
余勢を駆って上田市の母袋市長(当時)をも訪問。
これは真田らいてうの会の他、上田らいてうの会も本建設プロジェクトに大きく関わっていることと、どのみち合併で「らいてうの家」も上田市の施設ということになることによるため。
それにしても母袋さんはさすが一般市民ウケする勘どころを押さえたシャキシャキ男。
合併後は再び市長になることになるのかな?

島田県議と小田原先生
このプロジェクト推進にあたっては島田基正県議と上田第三木材合資会社、家具デザイナーの小田原健先生にはずいぶんご協力をいただいた。
あまり政治絡みにしない方がいいとのご忠告も周囲から寄せられたが、結果的にはそれは考え過ぎともいえる無用の心配であった。
今回のプロジェクトでは実に誰もお金儲けなどしていないのである。

建設現場の伐採作業
信州樵工房による「らいてうの家」建設予定地の伐開・整地作業のようす。手入れの行き届いていない荒廃アカマツ林という状態であったので使えそうな材はあまりない。
ここでは事前に笹を全面刈りし、伐採したあとの伐根は全て抜くという作業が必要であった。環境に配慮し、伐採する木は可能な限り少なくし、必要があれば移植も行った。そのための樹木調査も綿密に実施。
シンボルツリーはシナノキの大木に決定した。

カラマツを出材した財産組合所有林
構造材用のカラマツはすべてここで調達。
現・上田市東御市真田共有財産組合所有の118林班い−1と119林班い−5で、いずれも水源涵養保安林であり、面積は約8ha。ここを財産組合に対しては無償で間伐する代わりに材はすべてらいてうの会がいただく。らいてうの会は材木代として信州樵工房の作業費を支払うというもの。
複雑だが財産組合の規約上、仕方のない方法だったのだ。

製材所に集められた材を見学する
当工房で伐採・搬出した材はすべて東御市加沢の協同組合エルク(上田第三木材合資会社)に運ばれた。
簡素な山小屋というコンセプトであったため、多少欠点のある材も有効活用することがまず最優先にされた。
とはいえ、菅平産のカラマツはまずまずの品質。さらに長野市大室産のスギ材はなかなかの高評価であった。

地域の業者を集めての入札説明会
上田市、旧・真田町からいくつかの業者を集めて本工事の入札説明会が旧・真田町林業会館で開催された。
施主側から本建築プロジェクトのコンセプトが説明され、後日選考の上決定するというものであった。
結果からいえば選定された落札業者は上田市の宮下組。

地鎮祭。いよいよ建設へGO!
宮下組のセッティングで地鎮祭が執り行われた。
神主にはこれまた地元の女性神主である山家神社の押森さんが選ばれた。本来の神主であるご主人の押森弘文さんも同行されてきたが、最近急逝された。町にとって惜しい人を亡くしてしまった。
ともあれこの地鎮祭、幸いにも快晴のもと多くの関係者やお客さんを集めて盛会であった。

地鎮祭後の懇親会
地鎮祭のあと、お隣のあずまや高原ホテルにて懇親会が開かれた。
関係諸団体の代表の方々の挨拶などで大いに盛り上がった。
平塚らいてうに因む施設ということでどうしても女性パワーに押されがちであるが、要所要所で男性陣も応分の活躍をしていることを実感。

基礎工事が始まった
基礎工事はけっこう時間がかかった。
土地全体がいくらか傾斜している上に、標高1500メートルの寒冷地であることから凍結深度の問題があり、勢い基礎も高くなってしまうのだ。
部屋がいくつも出来てしまいそうなほど広く高い布基礎内はいずれは資材、機材、燃料ペレット置き場となる予定だ。

どんどん組み上げられていく「家」
いよいよ本格的な建築工事が始まった。
工事全体を取り仕切るのは宮下組だが、棟梁は川西木材からやってきた。
久し振りに地元産材をふんだんに使う建築を手掛けられるとかでおおいに張り切っていただけた。
ここまでくると私もある程度建設プロジェクトに関係した者として感動が実感としてこみ上げてきた。

使われる地域材「近くにある木」たち
信州樵工房として伐採・搬出した材はかなりの量になるのだが、それでも歩留まりの関係で全量が使われたわけではない。
しかしそれでも構造材のかなりの部分を賄っている。羽柄材や仕上材は上田第三木材の既製品や手配によるものだ。とはいえどちらにしたところで出所の知れた県産材であることに変わりはない。
写真は現場に搬入された構造材。わかりにくいがところどころに伐採現場で付したマーキングが見え、確かに地域材が使われていることを示している。

手際よく進む棟上げ
建築のハイライト、棟上げ。
棟丸太は信州樵工房出材の大室産のスギ大径材など。
そこへ手際良く登梁が組まれていくと、みるみるうちに屋根ができあがっていく。
施主にとっても設計者にとってもうれしい一瞬ではなかろうか。

建設に関わった設計グループと会員
上棟式のあと、記念撮影。
NPO法人平塚らいてうの会、上田らいてうの会、真田らいてうの会、中央設計(東京)の永橋氏、アトリエ獏プロジェクトの皆さんである。
多くの人々の気持ちが渾然と一つになっての事業、人と人との出会いの大切さ、いろいろなことを教えていただけたプロジェクトであった。

姿を現した「らいてうの家」
外観上はほぼ完成に近い状態となった「らいてうの家」。
玄関のスロープなど、実際には建築途上で変更が加えられた部分も多い。
この状態ではまだ内装はほとんど手が付けられていない。寄付金の集まりがなかなか進まない中で予算的に当初はやや押さえ気味にした細かな部分がこの後、意外にも多くの人の気持ちに支えられて良い方向に向かっていくのだ。

出材御礼の植樹予定地整備
実はこの建設途上かららいてうの会の活動として出材された森林への植樹活動が計画されていたのだが、これに県のコモンズ支援金が付くことになった。
そこで会員や一般の参加者を集めて植樹予定地の笹刈りと地拵え作業がとりおこなわれた。
プロの指導のもと、多くの参加者によって手際よく作業が進められていく。今後この森林については財産組合のご厚意により、「らいてうの森」と名付けられることとなる。

ネットワークの賜、ステンドグラス
見事なステンドグラス。
これもまた地域のステンドグラス作家の手になるもので、当初は上の三角部分のみにしか取り付けられない予定だったのが思いがけない寄付により全面にステンドグラスが入れられるようになったもの。
この美しさはぜひ開館後、実際に「らいてうの家」にお出でになってご覧いただきたい。

ロフトからホールを見る
ホールはこんな感じである。
椅子を並べて30名前後、床に直接座り込むなら50名前後の集会が開ける広さだ。特に床暖などの設備はしていないが、開館期間は冬場を除くので特に問題はなかろう。
このホールにもペレットストーブが入れられる。

ホールから大黒柱と図書室、テラス
左に写っているのが大黒柱で、これは真田町傍陽樋ノ口産のスギ大径材を丸のまま使っている。
こういう使い方をしてもそれほど圧迫感がないのはやはり木使いの家の良さというものであろう。
右の方はテラスへの出入口で、左奥には図書室への出入口が見える。早くも建具に狂いが出てきているが、それは最初から折り込み済み。建具屋さんも「あわてなさんな」の一言。

ペレットストーブが設置された
信州型のペレットストーブを2基設置した。
いずれも伊那の近藤鉄工製で、県木の利用推進課の肝いりで農林中金から寄贈されたもの。
コーディネーターはNPO法人森のライフスタイル研究所の竹垣氏。この日は取り付けで近藤鉄工さんが一日がかりであったが試験燃焼で暖かさを実感。
まあ、薪ストーブもいいがそれが無理なところではペレットストーブをという選択肢は確かなものだろう。

外観はほとんど完成状態へ
内外装ともほとんど完成した状態の今。
あとは細かなところと、外構回りの整備作業だけだが外構回りについては雪解けを待たねばならない。
5月下旬のグランドオープン以後、どんな姿を見せてくれるのか今から楽しみである。

ペレットストーブの贈呈式

春とは名ばかり、「家」の周囲はまだ深々と雪に覆われている。
しかし、5月のオープニングに向けて種々の準備は急ピッチ。
そんな中でペレットストーブの贈呈式が行われ、多数の関係者が列席した。
写真は贈呈式後の記念撮影。
「家」にはペレットストーブが2台設置されているが、そのうちの1台は農林中金長野支店から寄贈され、もう1台は上伊那森林組合からの無償供与。
タダより高いものはあるかどうか?とりあえず、暖かくてgoodです。


会員みずから庭園づくりと遊歩道づくり
オープンを1ヶ月後に控え、「家」の周囲の雪もやっと消えた。
そこで当初の計画通り、会員自らの手で笹を除去して庭園造りをし、ついでに地元の造園屋さんの協力を得て遊歩道づくりを実施した。
遊歩道には(協)エルクから無償提供を受けた木材チップを敷き詰め、環境と足に優しい遊歩道とした。

女性パワーで階段まで作った!
用材を調達した山のカラマツの残材を使ってスロープから駐車場に下りる階段を作ってみた。
これ、何とこの手の工事では素人の女性ばかりの手で作ってしまったのだ。
恐るべし女性パワー。
写真じゃよくわからないがなかなかの出来である。

本年度最初の事業「きのこ教室」
オープンを記念しておこなう連続講座の第一弾として「きのこ教室」を開催した。
講師は上田市真田町の県指導林家で若林きのこ研究所代表の若林正広さんにお願いした。
一般にも広報したので会場には会員以外の方も・・・。
県信州の木利用推進課の河合参事の姿も見えた。

みんなできのこの駒打ち作業体験

ホールでの講師のお話のあと、春の好日、さっそく屋外にてきのこの駒打ち体験をやってみた。
駒はシイタケ・クリタケ・ヒラタケの3種類。
全部で100本のホダ木を前にして参加者はトンカチ片手に思い思いに駒を打ち込んだ。
指導に従って仮伏せし、菌が回ったら本伏せする。
何よりも楽しみなのは収穫だ。


農学博士武井先生からカラマツのお話を聞く
5月27日は第2回目の森の講座。
この日お招きした講師は長野県林業総合センター森林学習館の前・館長さんにして農学博士の武井富喜雄先生。
カラマツがご専門で今でも森林学習館を舞台にカラマツに関するいろいろな講座を受け持っておられる。
先生の軽妙なお話しに参加者も夢中になった。

材をいただいたお礼にブナの植栽
今回のプロジェクトでは多くの森林所有者の方々から材の提供をいただいたが、上田市東御市真田共有財産組合(旧:真田町外二市共有財産組合)もそのうちの一者。
たまたま「らいてうの家」の近くにカラマツの提供林地がある関係でお礼というわけではないがブナの植樹をすることで感謝の意を表した。
広葉樹と針葉樹の豊かな複相林になるといいと思う。

いよいよグランドオープン!田中知事の挨拶
5月28日、ついに「らいてうの家」はグランドオープンを迎えた。
多くの人の努力と苦労と好意に支えられた、まさに協働の家だ。
多くの来賓と報道陣が詰めかける中、田中康夫長野県知事(当時)による完成お祝いの挨拶があった。
思えば今回のプロジェクトでは長野県の行政としての協力にも並々ならぬものがあった。

設計プロジェクトの皆さん、ご苦労様
この日の午後はお隣のあずまや高原ホテルに会場を移して完成記念のレセプションが開催された。
写真は記念撮影に応じるアトリエ獏の服部さんを中心とする今回の設計プロジェクトの女性設計士9名。
彼女らの努力と苦闘を知るとき、今更ながらに今回の「らいてうの家」建築プロジェクトの社会的意義を感じざるを得ない。

上原先生を招いて森林療法のお話を聞く
7月9日は兵庫県立大学の上原巌先生をお招きし、今各地でたいへん話題になっている森林セラピーについてのご講演をいただいた。
氏は長野県のご出身で県内でもいくつかの実際の森林療法を指導しておられ、そうした専門的な立場からのお話しに参加者は新たな森林利用の方向性を見いだし、その可能性について理解を示した。

林業に関わる女性によるシンポジウム開催
8月27日は県内各地で活躍される女性林業関係者をお招きしてミニシンポジウムを開催した。
出席したのは塩尻市の県林研女性部会会長の西村いそ子さん・NPO法人信州そまびとクラブ常勤職員の麻生知子さん・上伊那森林組合技能職員の古賀菜穂子さん・飯伊森林組合事務職員の遠藤寛子さんの4名。 
コーディネーターは林政ジャーナリストの赤堀楠雄氏にお願いし、女性と林業の関わりに多くの人が関心を示した。

コカリナ製作と演奏の体験
午後はいわすげネイチャースクール代表でNPO法人よませ自然学校理事長の畔上正雄さんをお招きして、コカリナの製作体験と簡単な演奏指導をいただいた。
コカリナはよく知られたように長野五輪の際に伐られることになった広葉樹を活かすために黒坂黒太郎氏が作り、広めたもの。
参加者は自分でコカリナを作るという体験をしながら、夏の終わりのあずまや高原にその澄んだ音色を楽しんだ。

番外編として故・吉村順三氏の別荘見学会
連続講座とは関係がないが、番外編として中央設計の永橋先生の仲介で軽井沢にある故・吉村順三氏(建築家)の別荘を見学するというまたとない機会を得られた。
招待されたのはらいてうの会会員の他、建設に関わった建築士ら関係者のみ。
永橋先生と吉村氏の奥様のお話を伺いながら建築家としての吉村氏の理念と美学を実際の建築物を通して目の当たりにすることができた。


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